龍千

闘いの果て


1374文字。
龍千拍手お礼第二弾。拍手ありがとうございます!
16巻宝島共闘場面。小説というよりはポエム。
前回拍手お礼と繋がっているような、いないような。



 ――龍水、ここだ、龍水!!

 絶体絶命の危機の中、起死回生の策を必死で練りながら。
 心の中で、その名前だけ、繰り返し呼んでいた。
 
 この感覚には覚えがあった。氷月に小指を切られた時だ。
 あの時も絶体絶命だった。自分一人だけが体を張り、ラスボスと対峙せざるを得なかった。
 あの時は腕の中に守るべきものがあり、それは同時に切り札でもあった。
 今の俺には、ただ欲しいものがあるだけだ。
 そして、そのために、どうしても必要な人間がいる。
 
 一言も言葉を交わさなくても。何なら拳ひとつのジェスチャーすらなくても。
 起こしたその瞬間から、早い理解力でなすべきことを解り、抜群の決断力と行動力で俺と共に闘える、あの男。
 あの男にしか、出来ない。
 来てくれないかもなんて不安はない。信頼しかない。
 俺が守らなければ、なんて微塵も思わない。
 今この瞬間、あいつしか、いらない。

 本当は解っていた。こないだ二回目起こしたその時から。
 大樹を連れて海から上がってきた時から。
 大樹に「龍水はいい男だぞ」と笑って言われた時から。
 あの男は絶対に間違えない。
 起きた瞬間俺を見つける、インカムを探す、ラボに戻り操縦機をセットする、そんなこと百億年以上前から解ってたみたいに解る。
 そうすると信じられる。相手のことが、アホみたいによく解る。
 言葉なんかいるわけがない。接触ひとつ、視線ひとつすら必要ない。
 そこに、いる。

 何故だろう。長く一緒にいたわけでも、血がつながっているわけでもないのに。
 からだを合わせたからだろうか。深く触れあった相手とは、言葉などなくとも相手の心が読めるようなるものだろうか。最小限の言葉があれば、タイミングを合わせることすらできるのか。
 今まで、そんなことはつゆほども知らなった。
 「やるじゃねーか」どころではない。「唆るぜ、これは」と思った。
 俺はあいつの考えが読めるし、あいつにもそれが可能なのだ。
 そんな相手が存在するということの面白さに、喜びが爆発しそうだった。


 こっちが脳をブンまわすより早く、走り出した後ろすがた。
 石化していくさまに、崩れていくそのさまに、感傷など湧かない。
 悲哀より憤怒より、その行動の意味を理解しようと脳が動き、解った途端に体が動いた。
 俺が思考を停止したその間にも、彼は考え、動いていた。
 こんなのは初めてだ。
 こんなに心を揺さぶられるのは。

 この勝利は、究極的には何のため。誰のため。
 そう考えた時初めて、この男のことが、途方もなく愛しいと感じた。
 いとおしい――と。

 この男は俺に守られたりしない。
 俺が考えるよりも早く動けて、俺が決断するよりも早く最善を尽くす。ためらわない。間違わない。
 到底惹かれずにはいられない。
 俺は賢いのかもしれないが、だからこそ足りないものがある。
 それを埋めてくれるのはコイツなのだと、バラバラに砕けた石像を見ながら悟った。
 ――何度石化しても、何度砕けても。
 俺は必ずこいつをよみがえらせる。何度でも手に入れる。そう心に誓った。

                                        了

2021年12月31日お礼更新

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