真夏のクリスマス
1568文字。
2021年クリスマス更新。
21巻アマゾン入ったばかりの頃(のはず)。出来てる二人。
「司ァ、これやるわ」
肩の包帯を巻き終えた千空が何かを差し出してきて、司は反射的に受け取った。見れば手のひらサイズの金属製の立方体だ。科学王国の星マークが中央についていて、ちょうど指が入るような横穴が開いている。見慣れない形状だが、その穴から想起するのは。
「……メリケンサック?」
「大正解、百億満点やるよ」
上機嫌な千空の顔には見覚えがあった。二度目の復活直後、両刃の大剣を渡してきた時にもこんな顔をしていた。ワクワクしている小学生みたいな顔だ。そういえば最近、「サイズを測らせろ」と不意に指を握ってきた時も近い顔をしていた。もっとも、あの時司は今とまったく違うことを想像し、期待したのだが。
「ありがとう。でも、どうして急に」
「バイクばらした時、何か武器に転用できねえか考えた。これなら肩に負担になんねえし、テメー向きだろ。まあ、リサイクルで悪いがクリプレってやつだわ」
何でもないような顔で最後に付け足された言葉に、思わず瞠目する。
「そうか、今日って」
「ククク、うるせーやつらもいるから黙っとけよ。どんちゃん騒ぎしてる暇はねえ」
「うん――そうだね」
最近の日々はめまぐるしすぎて、日時を意識する余裕もなかった。その点、遊び心を忘れない千空はさすがだ、と思う。
「でもそういえば、今日のスケジュールは少しだけゆるめだよね。配慮したのかい?」
「龍水とゲンがな。だから、こんな時間もあるわけだ」
夕食にはまだ早い自由時間。いつもならまだ移動している時間帯だった。狩りに出ようとした司を千空が追ってきて、傷を見せろと言われたので、涼し気な水場近くに落ち着いた。久々の逢瀬だった。
「こんな暑いのにクリスマスだなんて、変な感じだね」
汗を拭いながら言うと、千空は「あ゙ぁ、年末年始もな」と笑った。年始と聞いて千空の誕生日を思い出す。プレゼントのお礼をすぐできるのはありがたいが、こんな状況下で自分が何を贈れるのか、少し不安になる。
「俺は君に貰ってばかりで、何も返せてないな……」
ため息をつくと、即座に「そんなことはねえ」と否定される。だがそう言われても、司としては返しきれない恩が溜まっていくばかりのような感覚があった。
「そういえば未来が言っていたな。去年のイブの夜、俺のところに行ったら既に千空がいたって。一緒に蝋燭を灯して、歌を歌ったりして過ごしたって」
「未来のやつ……」
言うなっつったのに、と千空が唸る。
――クリスマスパーティ、楽しかったけど私、だんだん兄さんだけが一人ぼっちであんなとこおるのが嫌になってきて、一人で滝を下りてん。そしたら。
不意に、妹の声があざやかによみがえった。
――千空さんが先に来ててん。冷凍庫の蓋開けて、兄さんの顔じっと見てた。私、邪魔したらあかんと思てよう声かけれんかったわ。結局物音立ててしもて気づかれて、一緒に遅くまでおってんけどね。
そう言って未来はいししと笑い、こう締めくくった。
――兄さん、千空さんを大事にせなあかんで?
「そう聞いた時から、君を口説かなきゃと思って」
何だそれ、とあきれたように千空が言う。
「そこまでしてくれる人、絶対掴まえとかなきゃいけないな、そうできなかったら俺は無能だって思って」
そうやってがむしゃらに手に入れた大事な人を、もう離さないとばかりに抱きしめる。
「単にイブに一人でいるやつ放っとくような教育受けてねーんだよこっちは」
可愛くない毒づき方をする唇を自分のそれで塞いで黙らせる。ここからはもう、愛の言葉だけでよかった。
了
2021年12月25日 twitterへ投稿