I Wish
1379文字。
2021年クリスマス更新。
7巻クリスマスイルミネーション場面。まだ出来ていない二人。
幻想的な光景だった。
大きな樹にからまった電飾が一斉にまばゆい光を放ち、夜空を照らしている。その中を、キラキラきらめきながら大きな雪が舞い降りてくる。見上げる人々の顔には驚きと共に笑みがあふれ、とても幸福そうに見えた。
旧世界ではありふれた、と言っては言いすぎだが、クリスマスの演出としては見慣れた風景だ。だが、この石世界でそれを実現することの困難を、ゲンはよく知っている。
この世界で初めて電気の光を見たあの日から、もう何ヶ月もたっていた。電球づくりが始まったのが二ヶ月前だ。それを、今日この日に合わせてイルミネーションを完成させた千空の執念に舌を巻く。
想像以上にかれはロマンティストで、人間が好きなのかもしれない、と思う。人を喜ばせたい、驚かせたいという気持ちが非常に強いのだろう。それはゲンにも共通する考えだった。ゲンだって、今日がクリスマスだと知っていれば――そこまで考えてふと気づく。
このサプライズの意味に気づけるのは、この村では自分だけだ。
もしかして、と考えるのは、穿ちすぎだろうか。
「千空ちゃんからのクリスマスプレゼント、ジーマーで凄いね。俺、感動しちゃった。今日これを見る意味解ってるのって――この村じゃ、俺だけだよね」
遠回しに真意をたずねると、ご機嫌そうだった千空の眉が跳ね上がる。
「だから何だよ」
「何だよってまたまた~~、千空ちゃんってば、ゴイスー男前すぎ」
これ以上は野暮かな、と思いながら、 探りを入れるのをやめられない。
「俺のためなの?」なんて、直接的には聞けない。「皆に対してのプレゼントかもしれないけど、サプライズは俺のためだよね?」なんて。
でも。
確信はなくても、感謝を伝えることはできる。
「……久しぶりに、懐かしい光景見せてくれてありがとね」
本心からそう言うと、想定外に感傷的な声が出て、ゲンは自分自身に驚いた。
その戸惑いに気づいたのか、普段なら「テメーのためじゃねえわ」と即座に返しそうな男は、耳に指を突っ込みながら不敵に笑った。
「ゴージャスな生活してた芸能人様は、そろそろ文明社会が恋しくなってくる頃かと思ってな」
ああ――やっぱり、と思う。
この男気に惚れたのだ、と何度でも痛感する。
「それが、不思議なほど、恋しくならないんだよねえ」
強がりではなかった。つい先ほどまで、本当にこんな光景があったことを忘れていたくらいだ。
日々が新鮮な驚きと感動に満ちているからだろうか。
目の前の人物が、すべての過去を塗り替えてしまったのかもしれなかった。
「ジーマーで、石化前より俺、幸せだって思う。今までで一番嬉しいクリスマスかも」
目を伏せてそう言うと、嘘だろ、と言いたげな視線がこちらに向けられるのが解って、ゲンは少しくやしくなる。
サプライズなんて本来はマジシャンの役割。今日がクリスマスだと解ってさえいれば、自分だって千空に、人生で二番目くらいには感動させられるプレゼントをあげられたのに、と思う。
こうなったら、誕生日でも聞き出してサプライズしないことには矜持が保てない。
ぜっっったいに、今日の自分よりも千空を感動させてみせる。そう誓ってゲンは寒空の下、ひそかに拳を握りしめた。科学の灯の光と雪をその頬に受けながら。
了
2021年12月25日 twitterへ投稿