告白
1484文字。
ゲン千拍手お礼第四弾。千空誕生記念。拍手ありがとうございます!
時系列不明。めずらしく、できてる二人。
お題「百夜・手・当社比10倍甘い」で、まあまあ甘くなった!!
「千空ちゃん、大好き」
ゲンはよくそう言って、自分のことを抱きしめてくる。
とても嬉しそうに、幸福そうに、そして大切そうに。だからつい千空も嬉しくなって、らしくもなく、「おれもだ」と返してしまいそうになる時がある。
――大好き。
こんな風に幸せそうに言われて、あたたかな感触に包み込まれる感覚を、よく知っているように思う。
幼い頃。何度も経験した。
くすぐったい気持ちと嬉しい気持ち。この腕は絶対に自分を離しはしないし裏切らないという安心感。照れ臭いけど嫌じゃない、そういう感覚。
大好き。
自分はそう言われても、決して同じ言葉を返さなかった。そんな子どもではなかった。
だが言っておけばよかったと、今になって思う。
子どもは三歳までに一生分の恩を返すのだという。二歳で引き取られた自分が返せたのは、たった一年分だ。
ならせめて、そんな言葉だけでも。
「な、何で泣いてんの…?」
「泣いて――?」
指摘され、相手の胸元に埋めていた顔を上げると、確かに頬を濡らすものがあった。それはたちまちゲンの派手な色の羽織の上に落ち、吸い込まれていった。
呆然としていると、黙って再び胸元に顔を押しつけられる。ぎゅっと抱きしめられ、頭をよしよしというように撫でられる。
ゲンの手はかれの体格に比してとても男らしくて、骨ばっていて大きくて、それが途方もない安心感と安定感を呼び起こす。
気づけば、千空は相手の胸に顔を埋め、縋るようにその背に手をまわしていた。
「んふふ、甘えん坊さん」
音符マークが語尾につくようないつもの話し方。フラットで、計算づくで、何もかもコントロールされているはずなのに、ひどく自然に感じる。
稀代のメンタリストのくせに、素を晒して自分のそばにいるのではないかと思えるこの存在を、ぜったいに失いたくない。離したくない。
それでもいつかは、何らかのかたちで離れる時がくるのだから――後で、悔やみたくなかった。
「俺も、テメーが好きだと思う」
一世一代の言葉は、聞こえたのか、聞こえなかったのか。ただ、自分の頭と背を撫でていた手が、不自然なくらい、ピタリと止まった。
これは聞こえたんだろうな、と確信する。
「え、えっと、ちょっとよく聞こえなかったから、もっかい言ってくんない……?」
「イヤだ」
覗き込んでくる気配に、ふいっと顔を逸らす。
「いやジーマーで、助けると思って、ね、千空ちゃん、一生のお願い」
「テメー、聞こえてただろ」
「聞こえた気もするけど、合ってるかゴイスー自信ないのよ! だって、願望からくる幻聴かもしれないじゃん!」
悲鳴じみた声を上げられて、ゆさゆさ揺すぶられて、千空は仕方なく、一言だけ言った。
「合ってる」
顔は完全に隠しながら、言葉だけは非常に重々しくそう言うと、ゲンのからだから力が抜けたのが解った。
「お、オーケー。オーケー千空ちゃん」
稀代のメンタリストであるはずの男は、今は蛇口が壊れたみたいに、ただオーケーだと繰り返す。一体何がどうオーケーなのか。
首をひねる千空を胸にいだいて、ゲンは今度は感に堪えないように「バイヤー……」と吐き出した後、いつもの言葉をつぶやいた。
千空をひどく幸福に、同じ気持ちにさせる、魔法の言葉を。
「千空ちゃん、大好き」
了
2023年1月4日脱稿