拍手お礼

事後


2123文字。
龍千拍手お礼第四弾。千空誕生記念。拍手ありがとうございます!
時系列不明。かなり前からできてる二人なので、船の中かも…?
お題「百夜・手・当社比10倍甘い」で、3カプ一甘くなった!!



 甘い余韻に浸っている時間がすきだ。
 安心感と充実感と愛情で満たされた感じ。それだけでいえば、百夜や大樹といる時感じたものと似ているとも言える。が、やはり違う。
 快楽の残り火があって、次の予感をはらんでいて、かわす視線ひとつとっても、互いをいたわるような、いつくしむような色があって。切ないような、しあわせすぎて苦しいような思いもあって。何もかもが違う。
 言葉はいらなくて、肌で会話するようなところ。相手の匂いに、体温に、途方もなく満たされ、頭が空っぽになるところ。
 触れ合った部分から鼓動が伝わってきて、それをもっと聞きたくて、相手の胸に顔をすり寄せる。頬を強く押しつける。

「……どうした?」

 事後の恋人の声は、普段よりさらにとろとろと甘く、優しい。ひどくいい男だな、とそんなところからも考える。
 そういえば初めて二人で朝を迎えた時も、この男は至れり尽くせりだった。

 ――体調はどうだ? どこか痛むか? 腹はすいてないか? それとも、湯を使うか?

 羞恥と混乱で何も返せず、シーツから顔を上げることも抜け出すことも出来なかった自分を、この男は驚くほどの気長さと包容力で包み込み、あやし、甘やかした。
 愛されている、と思う。
 そう信じることで、満たされることを知っている。安定感のある存在に安心することも。はっきりした言葉や態度に救われることも。
 我ながら、本当にいい人間を恋人に選んだと思う。
 「何でなのか本当に解らない」等、何だかんだ言ってくる人間は未だにいるが、解らなければ解らないで別にいい、と思う。自分が相手に完全にイカれて、骨抜きにされていることを、特に知る必要はない。
 稀代のメンタリストだけはやはり流石なもので、

 ――あれでしょ、パパ味があって、ぎゅっとしてても違和感なくて、トロットロに甘やかしてくれるけど紳士なだけじゃないところがイイんでしょ。千空ちゃんが知らないことを色々知ってて、結構似てるところがあるのに、違うところがいっぱいあるのもポイントかもね~~。

 などと分析してきた。 
 「パパ味がある」、という言葉に、首を傾げる。
 百夜と龍水は全然違う。似ているところの方が少ないと思う。
 それでも、明るく前向きな性格や、自分を理解し、尊び、甘やかしてくれるところ、包み込むように自分を抱きしめるところ、陽だまりのような笑顔などに、重なる部分はある。相手のそういう部分に自分が安心し、癒されていることは間違いない。
 ただ、いくら養父と似ているところがあっても、大樹とは絶対に、こんな関係にはならない。
 見つめられるだけでぶわりと熱が生まれ、軽く触れられただけで電流のようなものが走り、耳元でささやかれただけで腰が抜けるような、不可思議な生理現象は起こらない。
 肉体的な相性があるのか、と思う。

「ひどく熱烈な視線だな」

 気づけば相手の胸にしがみつきながら、上にある顔をじっと見つめていたようで、その視線をからかわれる。余裕のある表情と態度が、少し癪にさわった。

「言ってろ」
「俺のいいところをひとつひとつ考えて、確かめているだろう。そんな顔をしている」

 毒づくと、派手な模様のある手が、なだめるようにそっとこちらの髪を梳いてくる。何で解るんだ、と思いながら、そのやさしい感触にうっとりする。眠いような、幸福なような、トロンとした気分になる。

「今夜はもう寝るか?」
「いや――もうちょっと、そうやってろ」
「フゥン」

 複雑な声音に笑みがこぼれる。久々の逢瀬、二回戦に突入したいと思っていることは、手に取るように解っている。
 だがかれはいつも辛抱づよく、こちらが回復し、再度そんな気分になるのを待ってくれるのだ。

「いいやつだなあ、テメーは」
「いいやつだけでは終わりたくないのだが」
「そういう意味じゃねえよ」

 真顔で妙なことを言われて苦笑が漏れる。龍水のことを「いい人なんだけど……」と終わらせる人間は男女ともにいないだろう。稀有な相手をつかまえた、とつくづく思う。

「ほんとにできた恋人サマだなって、考えてた」

 そう言って相手のからだの上で伸びあがり、首に腕を巻きつけ、かたちのいい口唇にちゅっと音を立ててキスをする。
 喜ぶかと思いきや、龍水はぐぅ、と、呻きにも似た声を上げた。

「……千空貴様、わざとやっているだろう」
「何が」
「次はやさしくしてやれないぞ」
「何でだよ!」

 褒めたのに、と驚いていると、じゃれつくような態度で体勢を変えられ、のしかかられる。

「な――」

 もうちょっと待て、と言いかけて、相手のぎらつくような瞳を見て、背筋に何かが走り抜ける。大型犬がじゃれるような態度は、ふとしたきっかけがあれば、たちまち獰猛なものに変わるだろう。
 甘くとろとろした雰囲気から一転、捕食者と被捕食者のような雰囲気になるのも――実は、嫌いではなかった。

                                         了

2023年1月4日脱稿

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